白山窯・水野 健一郎
実験を重ねて生まれる
自然体の器たち
2022.11.11
料理家も愛用する魅力ある器はいったいどのようにつくられていくのか?
Salaスタッフが窯元を訪れ、ものづくりの原点に触れます。
ー「手仕事の趣を残しつつも色や形が揃った器を作るには、ひたすら手を動かして、時間をかけて試すことが大切なんです。」
山々に囲まれた岐阜県多治見市。広々と明るいのどかな田園風景の中にひっそりと佇む建物が、M.STYLEの薫雲や咲を作陶している、白山窯。 虫が鳴く暑い夏の日に訪れた私たちを笑顔で受け入れてくれたのは、陶主の水野 健一郎さん。長年プロユースの器を作り続けている作家さんです。
入口からお邪魔すると、自然豊かなこの地で流れるゆったりとした時間と呼吸を合わせるかのように、水野さんの手がけた器の数々がいたるところに積まれています。
中に案内されてすぐに目に飛び込んできたのは、浴槽のような形をした大きなふたつの焼成窯。空間の中央にそれぞれどっしりと構えられた窯の頭上には、電気炉の蓋が天井から吊り下げられています。焼成の際には、床に設置された窯に覆い被るように蓋がゆっくりと降りてくる仕組みです。この窯は非常に珍しく、日本国内では水野さんが使っているものが最後の一つなんだそう。上にのせられた木板の隙間を覗くと、数時間前に焼いたという器がほんの少し顔を出していました。
「焼き物はその日の気温、火の当たり、釉薬のかかり方によって同じ条件で焼いても、全く違うものになってしまうんです。管理された大きい工場では手間をかけずとも1つの器をたくさん生産できると思いますが、人の手ではなかなか難しい。ああでもないこうでもないと試行錯誤を重ねて、最終的に、焼成時の器の置き場にあわせて釉薬を調整する方法にたどり着きました。今では、窯の中にめいっぱい並べて焼いても表情が大きくブレる事はないですよ。」
まるで土と窯の息を合わせる、チューニングのようなプロセス。想像するだけでも気の遠くなるような作業ですが、笑いながら話す水野さんの表情はいきいきと輝いていました。
これまでに手がけた器についてお話を伺うと「割烹料理なんかで使う器もつくりますよ」と、棚をあけて出してくれたのは、小さな柚子の小鉢。萩焼で知られるざらりとした釉薬の表情をゆずの皮に見立てた、粋な器です。築窯当初は、旅館や和食屋さんで使うような和食器を多く作ってきたという水野さん。棚の中には素朴でかわいらしい手書きの器やカラフルな色合いの小鉢などが並びます。
ニーズや時代にあわせて幅広い表現で対応する、そんな水野さんの柔軟なものづくりの姿勢に驚きつつも、制作プロセスで大事にしていることを伺うと「ながく愛される器を作るには、ある程度安定した市販の釉薬をうまく取り入れ、そこに自分らしさを出すための一工夫が重要なんです。」と答えてくれました。試行錯誤を繰り返すことで生まれる自然体な器は、水野さんのおおらかな人柄に通ずる印象があります。
プロの料理人やパティシエからも厚く支持される白山窯の器。手仕事の趣を残しつつも色や形が揃った高い品質の器を作る仕事の裏には、手間を惜しまずに、ものづくりのプロセスそのものを楽しみながら挑戦する職人魂がありました。
白山窯が手がける器をチェック
M.STYLE/薫雲(KUMO)
M.STYLE/咲(SAKU)
白山窯/水野健一郎
多治見市東栄町にある白山神社の隣に築窯し、50年。プロユース向けの食器の作陶に専念。伝統技法を活かしつつも、モダンでスタイリッシュな作風は、国内外の料理人から厚い信頼を得ている。
白山窯/水野健一郎
多治見市東栄町にある白山神社の隣に築窯し、50年。プロユース向けの食器の作陶に専念。伝統技法を活かしつつも、モダンでスタイリッシュな作風は、国内外の料理人から厚い信頼を得ている。